企画を具体的なカタチに落とし込むデジタルフェーズ

開発最初の工程であるデジタルフェーズ。新型車の商品企画とデザインをデジタル上でカタチにしていく工程である。新型車の開発には何台もの試作車を作るというイメージがあるかもしれないが、実際には開発の全工程で実車を組むのは3回程度しかない。開発のかなりの部分を、実車ではなくデジタルによるシミュレーションによって進める、非常に重要な工程である。

デジタルフェーズでは、企画段階で提示されたクルマの仕様に対し、それぞれ具体的な目標値を設定し、その達成に向けて車両全体或いは部位ごとにシミュレーション、場合によってはデジタル実験を繰り返し、実際の設計に落とし込んでいく。目標値は実現可能でありながら、他社と差異化する数値でなければならない。また、性能はすべてコストとセットである。実際、開発部門は三菱自動車水島製作所の各生産部門、購買部門、原価管理部門、そして部品を供給して頂くサプライヤーと、それぞれの仕様とそれにかかるコストを詰めていく。

NMKVは厚木の日産自動車開発メンバーと水島の三菱自動車生産メンバーとの調整、会議、進捗管理などを行っている。また、日産自動車の新型車の開発責任者(CVE : Chief Vehicle Engineer)を始め、開発・生産の両社の主要なメンバーはNMKVとの兼任である。彼らは、同じNMKVメンバーとして活発な情報交換と議論を行い、目標値達成に向けて力を合わせている。軽自動車の開発スピードは非常に速い。今回このデジタルフェーズにあてられたスケジュールは約6ヶ月。東と西、距離を越えた緻密なコミュニケーションがなくては達成不可能である。

齊藤CVE

デジタルフェーズの大詰めは、性能、品質、コスト、投資などのコミットメント値の確定会議である。「新型車のすべての仕様について『この数値で行きます』というコミットメント値を確定させます。競合車に勝り、お客様に満足して頂ける商品をつくるために、コミットメント値を妥協することはありません」と齊藤CVEは語る。 そしてシミュレーションや実験結果を携え、そのコミットメント値を満足できる品質で達成できることを確認する判断会議をクリアすることで、デジタルフェーズは終了となる。つまり、デジタル上は新型車が作れることが確認できたので、実際にクルマを作ってよいというお墨付きが与えられるのだ。